Devil†Story
ーー結末を言えば…その後、結界が解かれて夥しい人間達の死体の真ん中に立つ父を村長が拘束した。そこまで見て俺は意識を手放した。


父も命はあった…が。あの銀血酒の力の代償か、父が父に戻ることは二度となかった。まるで獣のように唸るだけの存在になった父は地下の牢屋に幽閉されたことを次に目が覚めた時にジルから聞いて知ることになった。目が覚めて失ったものは父だけではなかった。視力も著しく低下し、それから眼鏡による矯正が必要となってしまった。


回復してから父に会いに行ったが、変わらず父は唸り声をあげるだけであった。挙句にそこで言われたのは耳を塞ぎたくなるような言葉であった。


「…我々にはクローリーを楽にはさせてやれない。同胞を…それも暴走してしまった同胞を楽にさせられるのは…血縁者であるお前だけだ。お前の手で…クローリーの心臓に杭を打ち込むしかない」


残酷な言葉は俺の心に大きな棘を刺すのに、十分過ぎることだった。クローディアも数日後に目を覚ましたようで、両親が死んだことで暫く塞ぎ込んでいた。


…そんなことを思ってはいけないのは重々承知であるが、何処と無く…クローディア達が見つからなければ…と思ってしまう自分が居て、そんな自分にイラついてそれからクローディアともどんどん疎遠になっていった。


それから数百年…未だに俺の心には大きな棘が刺さり、父は不死に近い状態で地下で唸っている。


ーー「坊ちゃん?」


ーー!


ジルの声で一気に現実に帰ってきた。


「…顔色が悪いです。今日は早めにお休みになられてください」


いつのまにか起き上がっていたジルが自室へ誘導してきた。


…そう言えば。


過去を思い出して疑問だった点を聞いてみることにした。


「…あの日。結界が張られてのにどうやって入ってきたの?」


俺らが出られないような強力な結界の外にいたのにジルはあの場にやってきた。一体どうやって来たのかと疑問に思っていたのだ。


「あぁ…あのじじぃに睨みを利かせてやったんです」


目を細めながらジルもあの日の事を思い出していた。思い出すのは容易であった。あのことは昨日のことのように覚えている。


あの日…俺はあの人の命日だったから休暇をもらって人間界に行っていた。墓参りをして戻ってきたら村の様子がおかしかった。自分の主人が待っている屋敷に戻ろうとしたら結界が張られていた。事情を聞きに村長の家に行って…初めて主人達が危険なのを知った。


「つまり…主人とルイ様ご家族を見殺しにしている最中ということですか?」


「人聞きの悪い事を言うな。村の掟だ。お前も行くことは許さん」


「…何故?」


「お前だって有力な吸血鬼だ。そう簡単に行かせてたまるかーー」


そこまで言ってから漸くあいつは俺の怒りに気付いた。


「ーーいいか。俺はお前達の為に…こんなクソみたいな所にいるわけじゃない。あの人たちの為だ…。あんまり舐めた事言ってると…俺がこの村を潰してやるぞ…?」


「ッ…!」


元々お利口さんだった訳でも、吸血鬼だった訳でもない。寧ろ色々な悪さをしてきて縁があって吸血鬼になっただけだ。その中で…主人達に会えて今の俺が居るんだ。


「…分かったら俺はそんなクソ掟は聞かない。行かせて貰うぞ」


「待て!結果は解かせんぞ!それでどう行こうと言うのだ」


「…別に解いて貰わなくて結構。俺は俺のやり方で行かせて貰う」


吐き捨てるように言い放って乱暴に村長宅を出て行く。そして…結界の前に立った。異変を感じた村の結界師がなんかほざいていたが無視し、結界に手を向けて詠唱を唱える。


そこだけ時を止める魔術を使用して。


吸血鬼は元々そんなに魔術を使う為の魔力はない。その代わり身体能力は高めであった。そんな高等な魔術は…俺にしか使えない。だから結界師は驚きを隠せないような表情をしていたが、それも無視してその部分だけを破壊して中に入る。


術を解除すると再び時は動き出し結界も元通りになった。


そして急いで向かった屋敷の前では……先程語られた惨状が繰り広げられていた。


ーー「そんなところです」


鮮明に憶えているのだろう。眉間のシワが深く刻まれている。


「…そうだったんだな」


「えぇ…」


「…まっ、気になっただけ。聞けてよかったよ」


欠伸をしながら答えたヤナの瞼は重そうであった。


「……………」


ジルは更に眉間にしわを寄せていた。少しの沈黙が流れる。静かに深呼吸したジルは口を開いた。


「……坊ちゃん。俺は……」


ヤナの方を見てその先の言葉を止めた。疲れていたのだろう。静かに寝息を立ててヤナは寝ていた。


「…そうですね。お疲れでしょう。ゆっくりお休みください」


かけっぱなしになっている眼鏡を取り、ケースに入れてから自分にかかっていた毛布をヤナに掛けたジルは静かに部屋を後にした。

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