やくざと執事と私【第3部 上巻:ラブ&マネー】


「小夜さん、手をとってください。」



執事に言われ、組長の目をふさいでいた両手を離した。



組長は、暗闇からいきなり光を両目に浴びて、まぶしそうに、何度も瞬きをする。



そんな組長の目の前には、2杯の紅茶の入ったカップ。



警察署にあるものらしく、カップは、両方ともに無地の白色で個性などまるで感じられないものだった。



そのカップからは、白い湯気が薄くたっており、まだ、中身が温かいことを飲まないでも判断できた。



「おっ、2杯もくれるのか?」



ようやく目が明るさになれた組長が、目の前の2杯の紅茶に気づき、うれしそうに笑う。



「ええ、別に2杯でも構いませんが、片方には、先ほど大和が飲んだ唐辛子の辛味成分が、たっぷりと入ってますよ?」



「・・・えっ?」



組長の動きが止まる。



そして、まるでロボットのようにぎこちない動きで首を動かし、視線を執事の顔へと向ける。



その執事の顔には、無表情の微笑みが浮かんでいた。



「さあ、飲んでください。」



微笑みながらの執事の言葉。



組長の返事は、当然、「結構です。」



「これは、これは、大和らしくない。警察署にしては、美味しい紅茶ですよ?」



「でも、激辛エキス入りだろ?」



「だから、片方だけですよ。50%の確率なら勝負するのが男ではないですか?」



「・・・・龍一。」



真剣な表情で執事を見つめる組長。



「なんですか、大和。」



組長と同様に真剣な表情で見つめる執事。



女性の私としては、組長と執事のタイプの違う美男子同士が見つめ合う光景は、なんともヨダレの出そうな光景なのだが、当然、そういう状況ではないのはわかっている。


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