名も無き花
「んー、すごい人だね!」

苦笑いしながら水谷さんは言った。

「そうだなー、本屋のくせに歩きにくいな…。」

俺も釣られて苦笑いしてた。しかし、本当に歩きにくい。
もういい感じにお昼時なんだから、ファミレスとかへ行ってほしいものだ。

お目当ての物を探す俺と水谷さん。
外の看板があんなにでっかい割に、それはなかなか見つからない。

と、いうか人が多すぎてブースのジャンルが見えないのだが。

「あ!あれじゃない?」

水谷さんが、指をさす方を見る。
新刊コーナー。俺が確認したと同時くらいに手を引っ張られた。

「はやく、しないと売り切れちゃうよ~?」

引かれるがままに、おぼつかない足取りで店内を歩く。
たった5メートルくらいの距離が10倍には感じた。人が交差しまくってなかなか進めない。

大体こーいうところの客は、マナーが悪い。変にでっかい荷物を持っていたりする。
手からぶら下げている分には構わないが、背中に背負っているのは最悪だ。
そんなのに限って、周りを見ないで方向転換したりするんだ!

つまりあれだ、こっちが転びそうになる。わかるか?この気持ち。


「キャッ」

水谷さんの可愛い声が響く。

「危ないじゃないか!」

ぶつかっといて逆切れしているおっさん

カチンときたが、問題をおこすのもあれだし…。
俺はチキンだ!

「水谷さん大丈夫?」

「う・・うん。尻もちついちゃったよぉー」

そう言って、舌をのぞかせた。前向きなその性格にひたすら惹かれた。
レジに並んでもなお遠めにがん飛ばしているおっさん。



ごめんよ水谷さん…。
< 94 / 141 >

この作品をシェア

pagetop