プラチナの誘惑



無事に出産を終えたとはいえ、柚さんにとってはこれからもしばらくは入院生活が続く…。

相当のダメージを受けた体が回復するのはもう少し先になるらしい。

「桜のために、飲めない薬もあったから…柚の体はかなり壊れた…。
もうこの先子供を望めない体になったし…」

つらそうな野崎さんの表情を見て、ただ浮かれて病院に駆け付けた私と昴は何も言えなかった。

必死で出産を耐え抜いた柚さんは、待ち構えていた医師達によって集中治療室へ運ばれたまま、桜ちゃんを抱く事もできていないらしい。

出産が終われば何もかもうまくいくと安易に考えていた私はなんてお気楽なんだろう…。

病院のロビーで野崎さんに渡した『虹』の絵…。
私にとっては勇気の源。
柚さんが目にするのはいつなんだろう…。

昴と並んで、向かいに座る野崎さんを気遣いながら…何だか申し訳ない気持ちで…。

「柚は…とにかく命を繋ぐ事はできたんだ…。
あとどれだけ時間がかかっても、回復するから。安心してくれ。
新居にも、夏までには住めるらしいから」

「夏…。そっか…。
もうしばらくですね。
きっと柚さんの事だからびっくりするくらいに早く回復しますよ」

静かな昴の言葉に軽く頷くと、野崎さんは『虹』を見つめて

「病室に飾らせてもらうよ。…昨日の布絵本もそうだけど…いろいろありがとう。
柚が退院したら、新居にも飾るから、見に来てくれ」

「はい…楽しみにしてます」

ゆっくり笑いながら、野崎さんは産まれたばかりの桜ちゃんがいる新生児室に連れて行ってくれた。
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