サクラリッジ
どうにもすっきりしないまま、私は家路についた。
午前八時、家には誰もいない。
父親の車はなく、母親はいつも七時には家を出るので間違いない。
私は部屋に戻って、何かを取り戻すかのように眠りについた。

目が覚めたとき、部屋は真っ暗だった。
もう日が落ちたのだろう。
二度三度と瞬いて、目をこする。
ぼやけた視界が次第に明瞭になった。
私はパソコンの電源をいれて、マシンを立ち上げた。
ピコピコという電子音がしてから、BIOS画面が表示される。
私はその様をじっと眺めていた。
枕元においてある目覚まし時計を見ると、時刻は午後八時をさしていた。
家に戻ってきてから、ちょうど半日寝っぱなしだったようだ。

だんだんと意識を取り戻す中で、私はある臭いに気がついた。
ムワッという音が聞こえそうな、すっぱい匂いが漂っている。
寝ている間に汗をかいたのだろう。
服もじっとりと湿って、肌に張り付いている。
普通ならこうなる前に服を替えるなり風呂に入るなりするのだが、長い睡眠の砌では望むべくもない。
私は親に見られないようにこっそりと風呂場に行き、シャワーを浴びることにした。
風呂に入っていれば親には感づかれるのではないかと思う向きもあるだろう。
だが、気づかれるのが問題なのではなく、実際にそれを見られるのが嫌なのだ。
顔をあわせれば、親も何か言ってくるだろうし、それがわずらわしかった。
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表紙・目次

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