サクラリッジ
「あっ、秀一?」

私を見て、少し驚いたような顔をするビュネ。

もう結構な付き合いになるので、お互いに本名は知っている。

ビュネは自分の本名は好きじゃないと言って、私には本名で呼ぶことを禁じていたが、私
のことは平気で秀一と呼ぶ。

ネットでは毛布と呼んでくれるが、電話の時は必ず本名の秀一で呼んでいた。

ビュネがいうには、毛布よりも秀一の方がいいらしい。

実際に会ったらなんと呼ぶかわからなかったが、ここでも秀一呼ばわりだった。

どうやら、本当に毛布は駄目な子なのかも知れない。

「ごめん。遅くなって」

遅くなったのは私のせいじゃないと思っていたが、挨拶としてそう言っておいた。

そんなことはないとか、気にしないでとか、そんな返事がくるだろう。

「うん。もう一時間以上ここで待ってたよ」

どうやらビュネには、社交辞令やお約束は通じないらしい。

「なんで遅れたの?事故でもあった?」

などと聞いてくる始末だ。

家が遠いから時間がかかるんだボケと言おうかとも思ったが、じゃあ遅れたことを謝るな
とかなんとか、面倒くさいことになりそうだ。

「まぁ、ちょっとね」

結局は、茶を濁して終わらせようという結論が脳内会議から出た。

「ふーん。じゃあどこか行こう?遅れた秀一のおごりで」

ビュネは薄笑いを浮かべて席をたった。
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