くちづけのその後で
「あたし……施設育ちやねん……」


「うん」


あたしがポツリポツリと話し出すと、颯斗は相槌を打つように頷いた。


颯斗のシャンプーの香りは、まるでアロマみたいで…


あたしの髪を優しく撫でる彼の手と一緒に、リラックス効果をもたらしてくれる気がした。


あたしは、颯斗の腕に包まれながら少しずつ記憶の糸を手繰(タグ)り、過去の事を鮮明に思い出した。


もっとも、記憶の糸を手繰ったりなんかしなくても、あんな忌まわしい過去を忘れる事なんて一生出来ないけど――。


< 522 / 808 >

この作品をシェア

pagetop