【短】雪の贈りもの
*雪の音

───────────*

【音】

初めて彼を見つけたのは、冬の訪れを知らせる、空からの贈り物が届いた朝。

いつもよりキュッと閉じた空気を感じながら、私は首に巻いたマフラーに顔を埋めるようにして店に向かって歩いていたんだ。

その時、目の前を、何かがひとカケラ通り過ぎた。

『──雪……』

見上げた空からは、ゆっくりと、真っ白な雪が舞い降りて来ていた。

それが、そっと、私の睫毛に乗り。

鼻先に乗り。

頬を滑る。

冷えた空気よりももっと冷えた粒に、私はピクッと体を震わせた。


次第に増し始める、雪たち。

けれど、フードを被る気持ちにはなれなかった。

寒さに弱い私は、この白の季節が訪れる度、必要以上に体を震わせるのだけれど。

それと同じだけ、私の心を躍らせる、また新たな“とき”。



周りは俯き加減で、私の横を足早に通り過ぎて行く。

せっかくの初雪を楽しむ隙もないほどに。

だから。

私は波に逆らい、止めた足をそのままにした。

大切なものを見失いたくなくて。

今あるこの“とき”は、一瞬だけ。

手のひらに乗った白たちも、明日降る雪とは別のものたち。

儚い命ならば──。

手のひらに乗った白は、シュッと色を消し、水となった。


< 1 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop