【短】雪の贈りもの
そこまで言われたら断る理由が見つからなかった。

雪男さんなら。

きっと“彼”を書いてくれるのではないだろうか。

それが真実とは違ったとしても。

雪男さんの想像の上だとしても。

私は

『じゃあ、お願いします。楽しみにしています』

と、返事をした。



返事を書き込んでから手を置き、私は自分の胸が高鳴っている事に気づいた。

初めて感じる胸の中のときめき。

この胸の奥で、小人がポンポンとダンスを繰り広げているような気分。

何もかも、『私なんか』と諦めていたはずなのに。

私の気持ちを何の隔たりもなくわかろうとしてくれる人がいる。

それが勇気に繋がる……。

諦めていた事を、諦める前に何かをしてみてもいいのではないかという気持ちに変わる。

──雪が降ったら……。

変われるだろうか。

私は窓の外を見上げた。

深い夜に包まれた空からは、明日の天気を知らせる便りを見つける事はできないけれど。

雪が降るといいな。

素直な願いをそっと心に飾る。

1度しまった“諦め”という引き出しから取り出して。


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