不器用な指先


今までの私なら、きっと彼が違う女の子と歩いてたくらいじゃこんなに怒ったりしなかった。


小さく文句を零したとしても、こんなに胸が引き裂かれそうになることはなかった。



どうして透の時はこんなに苦しい?


こんなに辛い?





そんなの簡単だ。


心の底から

透を信じていたから。




透は私を裏切らないと


ずっと私だけの傍にいて
ずっと私だけに笑顔を向けてくれると


そう信じていたからだ。



けれど

半ば無理矢理そう思い込んでいたところもあったかもしれない。



年上で、優しくて、余裕のある透。



初めての年上の彼氏。



こんなにも甘えられるのが嬉しくて

こんなにも可愛がってもらえるのが嬉しくて


透の気持ちを確かめるかのように

つい我がままになっていった。


でもそれでも

透は私のことが好きなんだから。





いつしか透の優しさに甘えるだけで


透の本当の気持ちを考えることをしなくなっていった。




あの時

透の話を聞いていれば

透ときちんと向き合っていれば


つまらない意地を張らなければ


本当は透がそんな人じゃないと信じていたのに…



無情に連なる後悔の嵐



あの時こうしていれば


あの時ああしていれば




辿っても辿っても

後悔しなくていい場所が見つからない。

正当化できる場面が思い付かない。




透の優しさの中で自分がやってきたこと全てが、どす黒い行いに思えて仕方がない。



塞いでも塞いでも溢れてくる


皮肉な独りよがりと罪悪感にまみれた自らの愚行の記憶。


過剰だったわがまま。




その中で一際私の頭の中をドロドロとうごめく


ある一つの

記憶。



それさえなければ



透は死ななくてすんだかもしれない。




あの


汚い


汚い



夜さえなければ…








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