タレントアビリティ
第一章 音楽と自信欠如に関する事件
  第一章
 ~音楽と自信欠如に関する事件~





 空白添には才能が無い。それはそのまま文字通りの意味。






 空白 添。むなしろ そえ。
 身長体重は中肉中背。校内偏差値50.0。運動能力、いたって普通。特技無し、苦手無し。いわゆる普通の、普通の17歳男子。
 両親は海外出張のために、今は1人でアパート暮らし。しばらく前から住み始めた同居人がそこにいる事を除けば、いたって普通の高校生。

「はぁ……」

 そんな添は昼時の空を見ながら、ため息を漏らしてメロンパンを口に運んだ。添だけしかいない灰色の屋上は、添にとってのお昼ご飯スポット。毎日1人でここに来ては、美味しくパンを食べる。昨日はカレーパンだった。
 別に添に友達がいなかったりというわけではなく、ただ何となく、あのワイワイガヤガヤな教室にいるのが嫌だからここで食べているだけ。それも、とある事がきっかけで。

「やっぱ無いよな、才能」

 自分には才能というものが一切無い。それに気付いてからはこうして昼ご飯を1人で食べるようになった。理由は簡単。誰かといると必ず、才能が目に入るからである。
 才能と一口に言うのだが、種類はまちまち。勉強に運動に人徳という学生にとっての三種の神器に始まり、音楽や絵、会話術やムード作りというものも才能。もちろん、逆もしかり。
 添にはそれが、全く無いのだ。前述のようなステータスを誇るために、本当に何も無い。なにもかもが普通。それが個性であり、添の劣等感だった。
 だから誰かといると必ず、いやがおうでも目に入る。長い昼休みくらいはこうして屋上でリラックスしなければ割に合わない。そういう事なのだ。

「無い、よな」

 メロンパンの最後の一口を口に。Lの字型の校舎の屋上の入口から1番離れた場所には、誰も来ない。だからここを選んだのだけれど。
 パンの包装を結んでポケットへ。そしてコンクリートに大の字になって大空を眺めた。広い広い空。校舎や校庭からは喧騒。ゆっくりと心を広げて、添はあくびを1つ。昼休みが終わるまで、寝てしまおうか。

「才能なんて、無いし」

 この世界は、才能に溢れている。才能のカケラも無い添が、この世界にいる理由は無い。そんな毎日が、添の毎日だった。







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