タレントアビリティ
「あ、逆に誘うけど」
「何ですか?」
「明日の予定ってのはね、出版社に呼ばれてるのよ」
「どこのですか?」
「赤羽出版」
「……かなりの大手ですね」

 株式会社・赤羽出版。
 京都に本社を置く出版社が手掛ける雑誌は、大手出版社がメインとしている漫画雑誌とはまた異色のものを出版している。
 名を上げたのは本当に最近で、「月刊ウインドノベル」は赤羽出版の看板雑誌。様々なエンターテイメント情報を詰め込んだクリエイター必読の情報誌で、百万部近い売り上げがある。
 それを筆頭に「単行本のみでの作品提供」をモットーとして、次々と異色のクリエイターを世に送り出している。添が好むクリエイターにも、赤羽出身は多い。

「あそこの社長さんから、ちょっと」
「社長に呼ばれるってどれだけ……。まあ、能恵さんなら仕方ないか。即売会には1人で行きますよ。いいものがあったら買っときますから」
「そえも行くんだよ?」
「……は?」
「『1人面白いのを連れてくるから』って言っちゃったから、明日はそえも、ついてくるの」
「はぁ!?」

 いきなりだった。割と楽しみにしていた即売会。過激な意見を取り込んで吟味して、今後の世界の見方役立てようとしていた。好きなサークルも新刊を出すと、サイトで見ていた。
 それなのにこれだ。普通なら絶対キレる。能恵だろうが何だろうが、絶対キレる。はずだったけど。

「赤羽出版よ? 行くでしょ?」
「そりゃあもう! お邪魔していいならぜひ! 会えますよね色々な人に!」
「もちろんもちろん。まあ、私のお仕事にも協力してくれればいいけどねー。それが絶対条件よ、そーえ」
「俺でいいならやりますよ! で、何をやればいいんですか?」

 赤羽出版のブランドに誘われてホイホイついて行った事を後悔するとは、その時は思わなかったのかもしれない。
 とにかくこの時ばかりは興奮していた。株式会社・赤羽出版。きっと添にとっていい刺激になるし、著名なクリエイターを生で見れる。そう思っていた。

「とあるひねくれ者の性格矯正、かしら」

 グラスを傾ける能恵。意味深な笑みが、そこにはあった。
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