ミッドナイト・ブルー

フィニッシュ

「なんで、そうなの私赤ちゃん欲しい、絶対に産みたい、駄目なの」  「後で落ち着いて話しをしよう」       「どうして、今じゃいけないの」       「だって、愛美が折角美味しい物を、作ってくれたのに」       「あんちゃんどうして今話せないの」     「判ったよそれじゃあ言うけど、俺治療の為に放射線使っただろう、それにいろんな薬使っただろう、それにその子が生まれるまで俺は生きてないお父さんのいない子になるんだぞ」      「判ってるよ。そんな事改めて言われなくても、だから、良く調べていろいろと考えて、決めたのケンと、生きたって証が欲しい、これから先私の生きていく希望が欲しいの、判ってよ」    「判ってやりたいけど、愛美はまだ若いじゃないか、これから永い人生が
有る。色んな人に出合うと思う。その時に俺の事が重荷に成り幸せに向かえ無い事に成るのは嫌だからだ」       「そんな事考えてたの、ケンの気持ちは嬉しいけど、私がそうしたいの赤ちゃんはここで、生きてるの、多分ケンの声も聞こえているの、必ず良い子に育てるから」   「あんちゃん、私も協力するし、あんちゃんの周りには、良い人が沢山いるから大丈夫だよ、大丈夫」と、言われその後も長い時間を話し合い、最後は半ば押し切られる形で、認めてしまった。            結婚してから、一年が過ぎ、愛美のお腹は少しずつ目立ち始め、喜びと不安がないまぜになってきたある日、俺はここの所日課になっている、朝の散歩に行くと愛美に言うと、
「ケン、すっかり散歩が定番化してきたねでも、暑くなってくるから無理しないでね」
「判ってるよ、無理はしない、戻って来たらお前と、潤子に渡したい物が在るんだ。待っていてくれ」
「なに、その渡したいものって」
「秘密だよ、待っていれば判るさ、じゃ行ってくるから」
「いってらっしゃい」
一時間後、そろそろこの辺で戻るかと、多摩川沿いのいつもの散歩コースから、国道を渡ろうと歩道橋を上り切ったとき、いきなり胸が苦しく成り呼吸が出来なくなった。
朝日の中、薄れ行く意識の中俺の目に映っていたのは、まだ見ぬ子と愛美と潤子が三人で、永く夜に占領されていた空に朝の兆しが滲み始めたその空の色ミッドナイトブルーに染まり、顔を上げ真っ直ぐ歩き出す姿だった。
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