roulette・2
男が長い睫毛をゆっくり伏せて困ったように微笑む。

すると私の首の後ろからリッキーが上半身を出した。

くるくると小さな頭と共に大きな黒目を落ち着きなく動かす仕草を二人で見下ろす。

「君から離れたくないらしい」

優しく目を細めた男がそのまま一歩下がると、リッキーが再びぴゅっと身を隠した。

男の名残惜しそうなか細いため息と共に、緊張感の漂っていた空気が消える。

「今夜は“資格”と“証”を確かめただけで良しとしよう」

そう言うと、男は差し込む月光から外れるように体を横に移動させた。

私は徐々に暗闇に体を紛れ込ませていく男を呆然と見詰めた。

そしてその姿がほとんど闇に溶けた時、俯いていた男が何かを思い出したようにふと顔を上げる。

急に目が合った事で私がビクンと肩を震わすと。

男が柔らかく笑って色のない唇を動かした。

「僕はディーラー。また会いましょう」

そう言い終わらないうちに男は完全に見えなくなってしまった。

「……ディーラー?」

私はしばらく男が消えた場所から目が離せず、放心したまま立ち尽くす事しか出来なかった。


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