雪に埋もれた境界線
第十一章 疑問点
 二階に上がると、そこはまるで誰もいないように静かだった。

 同じ部屋の並びには、少なくとも木梨と久代と座間がいるという安心感があるのだが、高田と相馬の部屋には遺体もあるのだという事実が脳裏にちらつき、陸は身震いしながら自分の部屋に入った。

 部屋に入り独りになると、まず濡れたズボンと靴下を履き替えた。

 そしてこの屋敷に来てから起こったことや疑問点など、一連の出来事を整理しようと思った陸は、机の椅子に座り、机の上に置いてあるメモ用紙に書き出していった。


 まずこの屋敷の当主である、黒岩玄蔵のことについて。実際ハッキリと顔を見たわけでもなく声も機械音のようだったし、結局どんな人物なのかは分からない。使用人の鶴岡さえも、黒岩玄蔵に仕えて八年になるにも拘らず、一度も顔を見たことはないと云っていた。あの時、久代が更に質問したが、明らかに訊かれたくない様子だったし、他の使用人であるメイドの半田や料理人の梅田と川西も、鶴岡と同じく一度も顔を見たことがないのかもしれない。

 しかし執事の磯崎は、黒岩玄蔵と顔を合わせているのではないだろうか? サロンで相馬殺しのアリバイを話していた時、磯崎は『旦那様の書斎で仕事を手伝っていた』と云っていたのだから。そして黒岩玄蔵のことについて、『旦那様は人見知りが激しい方』とも云っていた。やはり磯崎は、他の使用人とは位が違い、黒岩玄蔵にとって特別な存在なのではないだろうか。

 次にこの屋敷に始めて来た日の夜、夕食の後、候補者六人でサロンのテレビを見ていた時のこと。

 高田と年齢が近く、同姓同名の男が殺されたとニュースで流れたのを見た時の高田の反応。明らかに狼狽し、『帰る』と云いサロンを出て行った。後にニュースで分かったのが、高田は偽者だったということ。本物の高田と隣人だった桜木という人物が、おそらくポストから招待状を盗み、年齢も近いことから本人に成りすまして屋敷に行くことに決めたのだろう。そして高田と名乗り屋敷に訪れた。しかしニュースで流れ、狼狽した挙句、結局帰ってしまったが、磯崎の話しだと、サロンを飛び出した後、帰ると云った高田にタクシーを呼び、メイドの鶴岡と半田が屋敷の門で彼を見送ったとも証言していた。それなのにどうして彼は庭のオブジェの横で、雪に埋もれ死んでいたのだろうか。


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