雪に埋もれた境界線
第十四章 化粧の瓶
 しばらく陸はサロンで考えごとをしていたのだが、夕食までは時間もあるので一旦部屋に戻ろうと廊下に出た。そして、とぼとぼと歩き階段を上り終えると、二階の奥の階段から磯崎が下りてきたらしく、こちらに向かって走ってくる。


「どうしたんですか、磯崎さん?」


「今、木梨さんから内線電話がありまして、どうも様子が変なのでございます」


「木梨さんの様子が?」


 陸は嫌な予感がして、磯崎よりも先に木梨の部屋をノックしたが返事はない。
 磯崎と顔を見合わせると、磯崎が先にノブを回した。すると扉が開き、視線の先には机の前で頭から血を流し倒れている木梨がいる。そして椅子は横に倒れ、何かの瓶が転がっていた。

 あれ、あの瓶は何だろう。いや、それより木梨さんが先だ。


「木梨さん! 木梨さん!」


 木梨に駆け寄った陸が声をかけると「うぅ、うぅ」と、呻き声を洩らしている。
 生きている! そう思った陸は「磯崎さん」と磯崎に声をかけた。


「私は救急箱を持ってきますので、あなたはここで待っていて下さい」


 磯崎はそう云うと、足早に部屋を出て行った。
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