七月の空~彼女がリスカをする理由~
窓の下では、野球部のバッティングの音。

遠くからは、トランペットのチューニングが聴こえる。

永久不滅の放課後の喧騒。

何十年前も、何十年後も、きっと変わらない、音たちの群れ。


そんな音たちをボンヤリと聞きながら、わたしの心はほぐれていく。

窓際の、ロッカーの上はわたしの特等席。

ロッカーに座って、青空を見上げる。

真っ青な五月の空。
雲ひとつない快晴。

わたしの膝の上にある、スケッチブックみたいに。

いや、スケッチブックは真っ白だけど。

もう、何度めかになる溜め息。


はぁぁぁぁぁ…。

「死にたいなぁ」

無意識に出た言葉にびっくりする。

いかん、いかん。

学校ではこーいうこと、口に出さないように気を付けてるのに。

ここに来ると、ついつい気が緩んじゃうなぁ。


日に焼けたカーテンとか。

ミシミシ言う床板に染み込んだ油の匂いとか。

ホコリをを被ったキャンバスとか。

その全部が、静かに呼吸してるみたいで、心地イイ。


でも、この教室も、来年には無くなっちゃう。

もともと、旧校舎にあった美術室。

新校舎ができて、この教室は美術部だけの城になった。
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