君が必要とする限り


箸を止め、
ふと目線を親父に移す。


親父は俺を、見ない。
目を、見ない。


「…なに?」


親父が箸を置く。
俺も反射的に、そうしてた。



重い空気が流れる。
それをかき消すように、
日本茶を流し込んだ。



「隆太には…大野亜矢子さんのカウンセリングをやめてもらおうと、思ってる。」


「…えっ?」


「もう、彼女は完治している。
だから…


「ちょっと、待ってよ。」


眉間に皺が寄るのがわかる。


「この前は、続けろとか言って…今度はやめろとか…そんなの勝手過ぎるだろ。」


「完治した患者に、無理な治療は必要ない。」


遮る、冷たい言葉。



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