たとえばあなたが



「きっと私には言いにくいこともあるんだろうなぁってわかってたんだけどね。でも、つい崇文くんに愚痴ちゃった」

わざと明るい調子で話す萌を見て、千晶は胸が締め付けられる思いだった。

「萌ちゃん、ごめんね」

「謝らないで、そんな深刻なことじゃないから。平気平気!」

「萌ちゃん…」



本当は、何もかも話してしまいたい。

自分の生い立ちや、今やろうとしていること。

その目的のためなら、どんな手を使っても構わないと思っていること。



全部打ち明けて、それでもこうして一緒にいられたら…―



そしてそのことを考えるたび、千晶の心を濃い灰色の霧が覆う。

(絶対に巻き込んじゃいけない)

大切だからこそ、言えないこともある。



心配そうに見つめる萌の視線にも気づかず、千晶はまた、暗い顔で作業に戻った。




< 225 / 446 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop