たとえばあなたが



「あと、覚えてますか。一家と親しくしてた小料理屋の女将のこと」

当時、中西は鈴木に連れられて、桜木和子の事情聴取にも立ち会っていた。

「あの、人の良さそうな女将が、殺されました」



聴取から20年経過していても、和子の穏やかな雰囲気は強く印象に残っていた。

和子と木村家との関係は、まだどこのマスコミも嗅ぎつけていない。

だが、それも時間の問題だと中西は思っている。



「まさかとは思いますが、何か関係あるんすかねぇ…」



木村家の事件当時、まだ新米だった中西は、鈴木の指示に従って2階にいる末娘が階下に来ないように見張っていた。

ところが、別の警察官に呼ばれていた数分の間に、少女は向かいの事件現場へ行ってしまった。

慌てて追いかけたけれど、手遅れだった。



あの、悲鳴のような泣き声が、耳にこびりついて消えない。

可哀相なことをした。

あのとき、中西が階段の見張りを離れなければ、少女はあの悲惨な現場を目にすることはなかった。

中西は、自分が少女に必要以上の衝撃を与えてしまったことに、今でも責任を感じている。

そのときの少女と思われる女性が自分の前に現れて、中西は少なからず動揺した。




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