たとえばあなたが



崇文が婚約者の存在を知ったあの日、礼子は『結婚の時期は未定』と言っていた。

死んだと聞かされていたはずなのに、未定、と言った。

だけどあれは、本当にそう思っているわけではないと崇文は考えている。



(死んだということを、ちゃんとわかっているはずだ)



いくら外見が奇抜でも、言動がおかしくても、礼子は社会人として仕事をしている。

気が狂ったわけではない。

ただ、死んだことを受け入れないほうが気持ちが楽だから、わからないフリをしているのだ。

それはあくまでも推測だけれど、おそらく当たっていると崇文は思っている。



そんな礼子に、崇文は今から小山の姿を見せようとしている。

今度こそ、本当に気が狂ってしまうかもしれない。



(…つくづく俺も残酷な人間だよなぁ…)



ガラスの向こうの歩行者用信号が青に変わり、たくさんの人々が交差点を渡り始めた。

崇文は、その色とりどりの傘の中から、ひと際目立つ金髪を見つけた。



礼子だ。




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