たとえばあなたが



もとはと言えば、木村千晶に近づくために入った会社だった。

仕事なんて、どうだっていい。

千晶の気を引いて、弄んで痛めつけることだけが目的だった。



それがいつの間にか、どこから見たって普通のサラリーマンだ。

家にいても、無意識に仕事のことを考えているときがある。



さらに最大の誤算は、千晶が小山の最愛の人となってしまったことだ。

ひと回り近く年が離れている千晶に、こんなに惹かれるとは夢にも思っていなかった。

けれど一方で、大人になった千晶を初めて見たときから、こうなることは予想できたかもしれないとも思う。



千晶の雰囲気が、あまりにも似ていたから。



かつての、最愛の人に。



今時には珍しい、真っ黒で艶やかな長い髪。

それが揺れるたびに、あの頃を思い出した。

目の前にいるのが、千晶なのか彼女なのかわからず、錯覚に捕らわれることさえあった。

そんな日々を過ごすうちに、気がつけば小山にとって千晶は、なくてはならない存在になっていた。




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