たとえばあなたが



ワイドショーなんて、どれもいい加減なのものだ。

計画的だとかあざ笑っているだとか…―

(…何も知らないヤツらが…!)

松田は正直、警察の手から逃げ切れるとは考えていなかった。

いくら自分がいた痕跡を消しても、すぐに何か証拠を見つけてくるだろうと怯える日々を送っていた。

ところがそんなある日、取調室で刑事に聞かれたことがきっかけで、松田は命拾いをした。



薄暗く狭い取調室。

松田は、横領事件との関連で警察に任意の事情聴取を受けていた。

鈴木と名乗った刑事の後方には、中西刑事が控えめに立っていた。



まだ新人刑事だった中西は、松田の婚約者の兄という立場ながらも、勉強のためという名目で立ち会っていた。

松田がときどき視線を中西に向けると、中西は気の毒そうな目をしながら、力強く頷いてみせた。



まるで『大丈夫だからな』とでも言うように。



松田は、自分がしたことも知らずに勇気付けようとするその目を見て、ほんの少し、心が痛んだ。




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