たとえばあなたが



アルフレッド・グレインという画家の名前は、何度か目にしたことがある。

新聞の片隅に、展示会の広告がよく載っていた。

白黒の写真だから色彩まではわからないけれど、美しい海の絵だということはわかった。



その画家を取り上げているテレビでは、展示室に入ったレポーターが、グレインの絵を前に感嘆の声を上げている。

【まるで宇宙のように壮大で、厳かな空気さえ感じられますねぇ】

壁にかけられていたその絵は、松田の想像よりもずっと大きかった。

大人が両手を広げたくらい、もしかしたらそれ以上の横幅がある。

これだけのサイズがあればたしかに壮大だろうよ、と松田は思った。

けれどこれは正直、日本の家屋には合わないと思う。

こんなに巨大な絵画を飾る壁がある家は、そうそうないだろう。

飾るなら、立派な洋風の家じゃないと…―



(木村部長の家くらいなら、合いそうだな…)



惨劇の舞台となった家。

この絵を見ていて、なぜか突然脳裏に甦った。




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