たとえばあなたが



特集VTRが終わって画面がスタジオに戻されても、松田はテレビの前に座り込んだまま動けずにいた。

けれどその目はもう、テレビを見てはいなかった。

ただ呆然と、千晶の照れたような、それでいて楽しそうな笑顔を繰り返し思い出す。



(なぜ…どうして…あんなに…)

あんなに、楽しそうに…―



事件のあと、どういう暮らしをしているのか気になったことがある。

親族が面倒を見ているだろうことは想像できた。

けれどきっと彼女の心には癒えない傷が残されて、幸せに笑うことなどできない大人になっていると、思い込んでいた。



いや、そうなっていることを、望んでいた。



あの一家の人間に、自分をこんな目に遭わせた人間に、幸せになどなって欲しくはない。

なのに、なぜ?

(俺だけが15年以上も苦しんで、なぜ彼女があんなに明るい笑顔で生きているんだ…!)



松田にとって千晶は、被害者の娘ではない。

自分を追い込んだ、加害者の娘。



それなのに…―















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