たとえばあなたが



ドライヤーを片付けると、千晶はリビングに戻った。

鏡台からスキンケア用品一式を取ってソファに座り、一息つく。

ソファの前の白いローテーブルでは、一輪挿しに黄色のデイジーが揺れていた。



どんなに忙しくてもここの花は欠かさないと、千晶が決めたルール。

このマンションで暮らし始めて3年経った今も、かろうじて守られていた。

会社の花瓶から抜き取ってくることもあれば、ときにはマンションの近くの池の周りに咲いている、名前も知らない花を飾ることもある。

花くらい買えよ、と崇文に言われるけれど、花屋で一輪だけ買うのも気が引けて、ためらってしまう。



(…もっと大きい花瓶にしようかな)

千晶がデイジーを指先で突つくと、小さな黄色い花がふわりと傾いた。

「あ~あ…私もこんなふうにかわいくて可憐な人生を送りたかったなぁ」

思わず口に出して言ったとき、ふと萌の話が頭をよぎった。




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