たとえばあなたが




中西礼子の40分にも渡る説得を終えたとき、千晶はノドがカラカラになっていた。

それでも千晶は、デスク上のマグカップに手を伸ばす前に、手元にあったファイルを広げた。

アートフィールが、現在どこで展示即売会を開いているかを調べようと思ったためだ。

(そんなに売れるなんて、どこでやってるんだっけ…)

契約書を指でなぞっていく。

その中央あたり、【会場】と書かれた欄で指を止めた。



【会場:松越百貨店7F催事場】



(…松越百貨店?)

千晶の会社から電車で数分の場所にある百貨店だった。

そしてそこは、いとこの崇文の職場でもある。

(松越の催事責任者っていったら、タカちゃんじゃないの)



もちろん今回のケースは、百貨店側には何の罪もない。

千晶が関わるのは卸し先の会社、つまりアートフィールだけであって、その先にまで口出しする権利などないのだ。



しかし、担当が崇文となれば話は別。

仕事がどうこうでなく、怒りをぶちまける相手として、崇文は呼び出された。




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