*エトセトラ*

熱に浮かされて

「38度。立派な風邪引きさんね」

「うぅ…」

「今日は安静にして、ゆっくり寝てなさいね?」

「はぁい…」


コホンと咳をしながら、体温計を片付けるお母さんをぼうっと眺めた。


頭が痛い。体も重い。熱もある。

今日は先生とデートの約束をしていたけど、こんな調子じゃ行けるはずもない。

連絡しなくちゃ…怒られるかな……


重い体をのそのそと動かし、携帯を取ろうとベッドから起き上がったところで、お母さんが振り返って言った。


「じゃあ、お母さんもう仕事行くから」

「今日、仕事なの…?」

「うん、付いててあげたいけど、今日は夜勤なのよ」

「そう…」

じゃあ、今日は一人ぼっちか…。

こういう時に一人でいるのは寂しくて心細いけど、仕事だからワガママは言えない。


「行ってらっしゃい…」

ポツリ、と寂しそうに声をかけると、「あ、そうそう」とお母さんがニコリと笑った。


「銀次さん、呼んでおいたから」

「……え?」

「さっき連絡したの。結衣が風邪だから、看病してやってって」

「えっ!?何でっ!?」

「何でって、心配だし一人にしておけないじゃない。銀次さんが来てくれたら、お母さんも安心だし」

「ちょっと待っ…」

「仕事が終わったら来てくれるんじゃない?よかったわね、結衣も安心でしょ」


安心というより…。

ヒクッと頬を引きつらせてる私に気付かず、お母さんは心底安心した様子で、「行ってきます」と仕事へ向かった。


お母さんは分かっていない…。

先生が来ると、治る風邪もなかなか治らないってことを。


< 183 / 210 >

この作品をシェア

pagetop