さぁ、跪いて快楽を乞え!
重厚な扉を二回ほどノックする。

「何の用です?」

中から聞こえた声を合図に、バッハの軽やか旋律が流れる部屋に入る。これはガボットだろう。
こじんまりとした部屋の壁一面の本棚にどこぞの国の写真。部屋に入って左手に置いてあるアンティークの黒いベッド。それからナイトテーブルにはフランス製のランプに、寝る直前まで読んでいたであろう本が数冊置いてある。

そして入って左側にいる、いつもどおりパソコンに向かう橘……。

「ただいま」

「……どうやって帰ってこられたのですか?」

こちらに視線を向ける事なく話掛ける橘。話くらいは人の目を見ろよ……。

「電車。菖蒲と一緒に乗った」

扉を閉じ、ベッドに倒れこむ。久しぶりの満員電車に疲れたのだ……。

「やはり貴方はクズでしたか。安心しました」
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