SAYONARA
伝えられない言葉
 あいつにとってあたしはただの幼馴染だった。

「この子とよかったら仲良くしてあげてね」

 目鼻立ちのはっきりとした黒いパンツをはいた女性が、あたしと目線を合わせる。赤のTシャツを着た少年の肩を軽く叩いた。

 はきはきと話す女性とは対照的に、少年はちらちらと潤んだ目であたしを見て、母親の腕をつかんでいる。

 あたしと彼の母親がひょんなことから知り合いとなり、子供同士を引き合わせたのだ。

 子供の頃のあいつは大人しく、初めて見る人に対してはいつもそうだった。逆にあたしは男の子に間違えられるほど活発で、すぐに誰とでも友達になった。

 人見知りが激しい彼に友達を作りたかったのだろう。

 あたしたちはすぐに打ち解け、幼馴染になっていた。

そうして彼は次第に今の彼になっていった。運動は得意だったが、落ち着きがなく、勉強が苦手な悪がきそんなイメージだった。
< 20 / 101 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop