SAYONARA
 彼の言うことは正論だった。返す言葉もない。

「美枝には言わないでくれるなら」

「言うなっていうなら黙っておく」

 その言葉を聞き、覚悟を決めた。

「美枝の彼氏の幼馴染」

「あ、そういえば」

 彼はまだあたしの手をつかんでいる。そして、覗き込むようにあたしの顔を見る。

「野田柚月」


 彼の口からあたしの名前が滑るように出てきていた。

 驚きながら彼を見つめる。

「どうして知っているの?」

「美枝から聞いたことある。彼氏の名前は武田功だっけ」

 そこで彼は言葉を噤む。そして何かを納得したようにうなずいていた。

「その武田功のことが好きなんだ」

 違うと否定したかったのに、凍りついたように言葉が出てこない。

「美枝と別れてほしくてあれこれ調べていたとか?」

 二人が付き合わなければいいと思ったことはあるし、嫉妬もしていた。

 だが、一番の理由はそうじゃない。

「あたしはただ功をきちんと見てほしかった。他の人と一緒にデートをしたりしないでほしかった。功のこと好きじゃないならこれ以上彼を振り回さないでほしい」
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