王国ファンタジア【氷炎の民】ドラゴン討伐編
 漆黒の闇に輝く色とりどりの星々は凍りついたように瞬かない。
 しかし、レジィの足元には黄金の炎に包まれた巨大な大地。
 熱に熔け爛れたそこからは、時々、巨大な炎の柱が立ち昇り、その度に波のように地面に戻る。
 身を焦がす熱気を今にも感じそうだが、ここは氷炎の民の守護神の夢の中、少年の身を脅かすことなどなかった。

「何ですか、これ」

 悲鳴にも似た震える声でレジィが<サレンス>に尋ねる。

「太陽だ」
「太陽?」

 ゆるりと頷いて銀髪の青年の姿を借りた神は静かに説明を続ける。

「サレンスは地上に太陽の力を呼び下ろすつもりだ」
「そんなことどうやって?」

 レジィは足元の巨大な熱の塊に視線を落とす。いくらサレンスの力が優れていてもこんなものの力を呼び出すなんてとてもできそうにも思えなかった。

「物の温度を極限まであげれば、物質は違うものに転移し、その際に膨大な力を発生する。それがこの世を照らす太陽の中で行われている。あれはドラゴン討伐のためそれをやることも辞さない構えだ。サレンス一人ならそこまでのことはできないはずだが、雷電の民が付いてる。彼女の雷を制御する力とあわせればそれが可能となってしまう」

 レジィは首を傾げる。まだ幼い彼には、<サレンス>の言うことが半分も理解できない。それでもわかることがある。

「それは……、でもそれでドラゴンが倒せるのなら」

<狩猟の民>の村でドラゴンに出会ったことを思い出す。ドラゴンは一瞬のうちに村を火の海にしたのだ。巨大な化け物であったあれの前では、強靭で獰猛な獣であるセツキですら手もなくあしらわれた。

 万全の状態で挑んだとしてもサレンスもまた<人>に過ぎない。手を焼くのはあきらかだ。
 あのときは<サレンス>が力を貸してくれたが、今はもうそれも望めない。

 地底湖で妹神に頼んで王都まで送らせた際、代償としてかの神は自分の力の一部をかの女神に譲渡している。今は<器>に宿ったとしても力を発揮しえない。

 他にもっと確実な方法があるのなら、少々無理をしてもそれを使ってしまったほうが安全だろう。

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