その唇、林檎味-デキアイコウハイ。
 何なのだ、私が一体何をしでかしたと。

 とりあえず廊下の端の方まで、一心に走ってきた訳だが。あまりの勢いで壁に激突しかけたのは、ここだけの話に。

 腕時計に打見程度に目を遣れば、もう直ぐ予鈴が鳴る時間。流石にそれを超えて彼が教室前に留まることはないだろう、後数十秒もすれば教室に戻れる。戻ったところで平穏が待っているかどうかは保証しかねるといったところか。

 まさか、あの人が。

 全く気付かなかった。どうして私は未沙の話を聞き流していたのか、今更ながらに悔やまれる。

 あれだけ騒がれる星丘 惺が昨日の人物だと、その程度なら繋がるはずなのに。…いや、繋がったところで、いくらなんでも教室に来るだなんて思いつかなかっただろうけれど。もう、とにかく何がなんだか訳が分からない。

 精神的にかなり打ちのめされた私に、未沙の一言が追い討ちをかける。


「星丘 惺、放課後迎えに来るって!いいなぁ、凛呼…」
「……は?」

 夢見心地なのが一目で見て取れる未沙の表情、仕草。私がいない間に、何があったんだ。

 全く、そういう人はそういう人で、内輪でやってくれればいいのに。外野の私をわざわざ巻き込まないでほしい。

 ……なんて考えたところで、本人がいないのではその思考を活用する手段もない。だからといって本当に迎えに来られてしまえば、あの空気の中振り切って逃げるなんて出来るものか。


 どの道いい方向には、転ばない気がする。

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