大空の唄


その時はパニックで気にしなかったが


蒼空は確かにあたしの腕を掴みそう言った


身体中の血液が一気に頭に集中する


あたしを助けるための冗談だということぐらい


流石のあたしにも理解できたが


その言葉を発したのは蒼空である


あたしの中でそんなこと口にしそうにない男No.1の蒼空であって


あたしの大好きな歌手のあの空である


記憶が少し進んだ


泣き出すあたしの涙を隠すように自分に引き寄せる蒼空


耳元で聞こえる蒼空の声…


いつもの地味眼鏡ではなく


黒渕で前髪も分けてある爽やかイケメンだった蒼空の姿が浮かぶ


今さらだけど照れる…


自分でも赤面したことが分かるくらい熱くて


ぼーっとしていた


心拍数も通常の何倍も早い


そんなあたしを過去から現実に呼び戻したのは


耳元で響く美咲の声だった


「絢音!!」


「はひっ!」


声が見事に裏返る


さらに驚きでビクッと肩が震え
今までと違う原因で心拍数があがった


「何ぼーっとしてんの?」


頬を膨らませる美咲を見て素直にヤバいと思った


「いや、えっと…」


「何か言えない理由があるわけ?」


「そ、そうじゃないけど…」


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