大空の唄


「消えないよ」


少し切な気な翔の声に俺は
その闇から視線をそらした


「忘れてしまっても消えはしない


絶対に…」


そして、入れ替わるように
翔が暗闇を見上げて


「忘れたら思い出せばいいだろ」


少し目を細めた


思い出せばいい、ね…


「俺さ、昔はこんな記憶
この気持ちと一緒に消えてなくなれば楽なのにって…

そう思ってた」


何でだろうな…


人間なんて、他人なんて信じられないのに


翔と陽の前だけは素直に弱味を見せられる


「だけど消えそうになると


消えて欲しくないと思た」


わがままだよな付け足すように呟いて


俺は再び暗闇に視線を向けた


「あぁ…わがままだよ
お前も、俺も、みんな…

だから、空も素直になれよ」


「はぁ?」


目が合うと翔は何でもない
そう言ってまた空を見上げた


変なやつ…


素直になれよ


その言葉の意味を理解出来るほど
俺はまだ強くなかった


肌寒い北風が小さく木々を揺らす


俺は冷えた手にふーっと息を吹きかけた


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