大空の唄
駅のホームに立つと少し肌寒い風が吹いた
俺はまだ電車の来ないホームを見渡す
出勤時間は人で溢れかえる駅のホームも終電間際になれば人が疎らだ
携帯電話の液晶を見つめ、ひたすら指を動かす20歳前後の女
酔っ払い椅子でうとうとする中年男性
仕事帰りらしきスーツの男
こういう光景を目にするとみんなどこかに闇をかかえているのだろうかと
そんな風に考えてしまう俺はかなり寂しいやつなのかもしれない
俺はホーム内を歩き、周りに人がいないことを確認してベンチに腰を掛けた
デビューしてすぐの頃もこうやって1人錆びた線路を見つめていた
俺はあの頃から何か変われたのだろうか
全てが怖くて前に進めない
絶望感で未来が見えない
あの頃は今までの人生で1番どん底にいた気がする
自分が和葉の子だと社長から告げられ、俺は口を閉ざす梨華に無理に全てを話させた
そして自分が望まれず生まれた人間だと知ってしまった
自分から望んで知ったことなのに、俺は世界中の人間が敵に見えた
あんな心理状態の俺が作った曲を、なぜ多くの人が求めたかは分からない
ただ、強いて言うなら俺が得たのは悲しみを隠して笑う術だった