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例えるとして、人生を月にしてみよう。まんまるいおっきな満月の時が自分が1番頑張ってる時で輝いてる時でもある。その輝きは誰の目からも明らかで、どんなに暗い辺りでも群を抜いた存在なんだろう。
クレーターの数だけ修羅場を超えてきた証だ。僕はつるっとスベスベな金持ち野郎なんかになりたくない。何十年と畑を耕してきたおじいちゃんのごつごつした手のようにさ、しわくちゃのしわが欲しいのさ。それが証だよ。証は体に表れるもんなんだ。
逆に鋭く尖った三日月は自分が一番危うい時であり、輝く面積もごくわずかなのであろう。 先の尖ったあたりがもし壊れでもしたらその時はもうおしまいさ。はかなく脆い存在であるが故の美しさもあるかもしれない。けどそんなもんはごく僅かさ。海辺の砂浜の砂から胡椒だけを探すようなとてもとても気が遠くなるような話さ。

一般的な人々はみんな半月を好むんだ。だって、乗り場が平らで一番安定してるだろ。人々はなににもなりたくはないんだ。ただ半月でいたいんだ。中途半端なそこが一番落ち着くんだ。でもそれは仕方のない話なんだよ。僕はなにも君を責めているわけじゃない。なんて言ったって僕だって健全な一般庶民だからさ。

でもそう思っているのは僕だけかもね。
なんて言ったって僕には足がない。どこを探しても平らな場所なんかないんだ。くっくっくっ。おかしな話だろう?僕には例えたい月さえないんだ。僕の周りにあるものは暗闇さ。いや、暗闇とすら呼べないただの無なのかもね。
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