傷だらけの僕等
彼女はそっと水を差し出す。

「ありがとう。」


俺は言葉を選んでいた。

一体なんて言葉をかけてやればいいんだろう。

「良かったな」

「おめでとう」

どんな言葉を選んでも軽く思えた。


俺は彼女の声が出なくなったときのことを知らない。

だから彼女の声が戻った理由も分かるはずがない。


彼女の全てを、俺は知らない。


そんな俺がようやく言葉を出そうとしたときだった。

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