ラブ☆ヴォイス
「うるさいわよ唯。帰って来たなら早く入りなさいよ。」
「お母さん!」

 あまりの声の大きさだったからなのか、お母さんが登場した。

「あんたは正真正銘声優オタクでしょうが。よそ様に聞こえるような声でそんなばかばかしいこと叫ぶんじゃありません。」
「だってお隣さんがあっくんなんだよ?ねぇお母さん!」
「何を夢見てるんだかあんたはまったく。いいから入りなさいって。」

 お母さん、聞く耳持たず。唯の母親は強引で、色んな意味で強い。というか、そもそも夢ではないのにな。もはや言っても無駄ではあるけれど。
 唯はカバンを持ち直して自分の部屋に入った。そしてベッドに寝そべった。


「…玉砕しちゃった。ってか違うのに。声優オタクじゃないのに。」

 オタクだからあっくんが好きなのではない。あっくんだから好きなのに。
 あっくんの部屋と自分の部屋を分けている壁をじっと見つめる。…穴でも掘ってやりたくなる。

「…不思議な感じ。」

 この壁の向こう側に、会いたくても会えなかった人がいるなんて、本当に夢みたいな話だ。へこんでいた気分がどこかに吹き飛んでしまってることに今気がつく。フラれたことなんて今更どうでもよかった。
 会えない人が会える距離にいること、それがとてつもなく嬉しくて、胸がきゅんと音を立てた。

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