月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
椿
駅から二十数分、住宅地から離れた畑が広がる景色の一画に、先輩の住む家はあった。



「建設業だからな、重機もあるし、周りが畑の方が都合いいんだ」



確かに、自宅の隣にある空き地には、ダンプやらショベルカーやらが並んでいる。

僕の息子が見たら喜びそうだ。

残念ながら、ロボットには変身しないだろうが。




空き地の隅に車を停め、こっちだと先輩に案内された。


瓦を乗せた重厚な門をくぐる。




門同様、家は純和風の佇まいだった。


木造平屋建ての、大きな家だ。

だがまだ新しく、築十年も経ってはいないだろう。



庭には小さな池もあり、数匹の錦鯉が悠々と身体をくねらせ泳いでいた。

岩に苔も生え、なかなかに赴きのある池だ。



それを囲む様に、手入れの行き届いた松の木が並び、小さな石造りの五重塔まである。


この搭は、この庭にはいらないな。

むしろ百日紅(さるすべり)でも植えたら逆に面白いのにな。





心中で庭園評論をする僕を、先輩が呼んだ。


ああ……僕の悪い癖だ。


良い庭や木々があると、つい眺める事に気をとられてしまう。
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