月花の祈り-宗久シリーズ小咄３-
丁寧な挨拶に、僕も頭を下げる。

｢こちらこそ、お世話になります。僕でお役に立てるなら、何でも話して下さい｣


笑う僕に安心したのか、薫さんは微かに瞳を細めて微笑した。


やはり、薫さんからも悲しみが伝わってくる。



先輩同様、一年前よりも痩せてしまっていると感じた。

少しふくよかで、健康的なイメージがあるから余計だ。




｢…ほら、あなたもちゃんと挨拶なさい｣


薫さんの背中、促される様に顔だけを覗かせたのは、六歳くらいの女の子だ。

そうだ、先輩にはもう一人子供がいた。



まるで珍しいものでも見る様に、僕を見上げる少女。

意思の強そうな顔立ちは、先輩似だな。



｢こんにちは｣

腰を落とし、挨拶を試みるが、少女は戸惑う様に再び薫さんの背中へと顔を隠し、そのまま庭の隅へと身を隠してしまった。



｢舞！｣

｢いいですよ。薫さん｣

｢すいません…普段は人見知りしないんですが｣



困った様に眉を潜め、舞ちゃんに視線を送る薫さん。


舞ちゃんは、あの椿の木の影に隠れ、観察する様に僕を見ている。





ああ……またあの椿だ。

もしや、僕の思う通りだとしたら…。
< 14 / 48 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop