月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
悲しみの雨
赤島家の家族は、気持ちの良い人達だった。


薫さんの両親は僕の来訪を歓迎してくれ、近所に住む薫さんの兄夫婦も、酒を持って訪れてくれた。


庭を誉めると、薫さんの父は酒を注いでくる。


気の良い家族。


決して貴志君の事を口には出さない。

だが、抱えている悲しみは皆同じだと感じた。






『誰も俺を責めない…それも辛い……いっそ、立ち直れないくらいに責め立ててくれた方が楽だ……』


貴志君の葬儀の時、泣きながら呟いた先輩の言葉がふいと浮かんだ。




優しい家族だからこそ、悲しみを閉じ込めてしまうのだろう。

吐き出せないままだと、膨らんでいくばかりだと言うのに。


せめて、皆が貴志君の思い出を語れる様に導いてやりたい。



見えない涙は、確実に溢れ続けているのだ。


降り続く雨の様に……。




多過ぎる雨は、恵みにはならない。

むしろ植物を枯らしてしまう。


それは、人間も同じだ。



生きる者も、逝った者も、全て……。





だからこそ、僕はここに来たのだ。




心を枯らさない為に。

雨を止ませる為に。



それが、糸を繋ぐ僕の役目だ。
< 16 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop