月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
しばらく戸惑っていた二人だが、舞ちゃんに背中を押される形で椿へと歩み寄ってきた。



「これで…何がわかるのですか?」


不安から、幹へと伸びる薫さんの手が震えている。


「僕を信じて下さい。必ず答えが見えます」

「薫、宗久を信じろ。こいつの力は確かだ」


納得しきれない面持ちの薫さんを促し、先輩は幹に手の平を押し付ける。


続いて手をあてた薫さんと共に、二人の表情が驚愕へと変化していく。





「………宗久」

「はい」

「これは何だ…なぜ幹がこんなに濡れているんだ」

「ここ数日、雨も降っていないのよ…?」





「お兄ちゃんだよ!」


気味が悪いと手を離す薫さんに、舞ちゃんが叫んだ。



「お兄ちゃんが死んじゃってから、ずっと椿は濡れてたんだよ!」

「…舞」

「なのにお母さん達、気付かなかったじゃない!それなのに気味悪いとか言わないで!」



叫びながら泣き出す舞ちゃん。



椿の変化。

それに気付いていたのは、舞ちゃんだけだったのだ。

悔しいのだろう。





「宗久…どういう事だ?貴志が死んでから椿は濡れていたのか?」

「…そうです」



椿は、濡れていた。
< 29 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop