-短編集-『泡雪』
9時、5分前。

彼の姿はまだない。

私は、表から差し込む街灯の光で化粧を直した。


……と言っても、先程までもう念入りにいじった後だ。

とくにこれといって直す箇所もないのに、落ち着かなくて鏡を見ていたかった。

しかし、こんな自分を見られるのも恥ずかしいと思い直し、慌ててしまい今度は外に目を向ける。


……綺麗な模様を描き並べられたタイルに、雪が落ちては、消えていく。

ヒトカケラ、またヒトカケラと降っては、すぐにじわりと地面に溶けていく。

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