-短編集-『泡雪』

何でこんなときにこんなことを思い出しているのか、不思議だった。
今の私は行くあてもなく、こうしてファーストフードの喫煙スペースで、狭いテーブルにポテトとコーヒーと、灰皿を置いたらもう他に何も置けないくらいいっぱいになって、狭苦しくちまちまと何度もライターを床に落としては、拾っていた。

あのかくれんぼの後のけんか、


一度も私から謝ったことがない。


そう、あのときのけんか、友達はいつも手紙を書いてきてくれた。
どのくらい私のことが好きか、隠れている間、どんなお話をしていたか、

誰も知らない、とっておきの秘密ネタ、私だけに教えてあげると付け足して。


私は幸せだった。
あの頃は気づかなかった。
愛されて当然だと思っていた。

ジャージの膝が汚れたら、母親が洗濯してくれるのは当たり前だと思うように。



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