チョコレート・キス
第五章 彼女の結末




「――――がいかねぇっつったんだ」

「……なんで……?」


吐き捨てる調子の波樹の声に続いて、今にも泣き出しそうな氷沙の声。


(……間にあわへんかったか)


ぎゅっと眼を閉じた。
ちかっと光った暗闇で澱む欲望を感じた。
ぐるぐると暗い感情の渦だ。悲しみ、怒り、苦しみ。空気がぶれている。

感覚が鋭い氷沙なら、たぶんそこにいるだけで自身の感情のコントロールを失ってしまいそうな、それ。

階段を駆け上がって、3階へと踏み込んだ先にいたのは、思いっきり睨みつけてきたそのくせ安堵した表情を浮かべた波樹と。
弟に縋りつくように泣きついている大切な少女の姿だった。

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