夢の住人
その場所に幼き頃の悲しい思い出がある。
ボクが小学3年生の時、雨まじりの雪がふる日、灰白色の野良猫と出会った。
猫嫌いの父に
「家で飼ってもいい?」とせがんだ事がある。案の定、許可はされなかった。
ボクは自宅からほど近い、公民館の裏の茂みの中に、段ボールで秘密基地を作った。
そこで、こっそりと隠れて、その猫の世話をしはじめたのである。夕食の残飯をせっせと毎日運ぶ。
そんなボクに気付いた母が、父の許可をボクの代わりに取ってくれた。
我が家の初めてのペット。
名前はリリと名付けた。
テレビの上に置かれた箱にいるのがリリのお気に入りだった。
半年ほどたった頃には、リリは子を授かり、たくさんの子猫達が産まれた。
ボクは嬉しくて、子猫の飼い主を探そうと意気込んでいた。
しかし、蒸し暑い夏、7月25日。あの日の事は一生忘れないだろう。
学校から帰ったボクは、リリ達と一緒に遊ぼうと、すぐ二階の部屋へと駆け出した。
が、リリ達がいない?
不吉な予感がした。
リリ達がいないからではない。
そこには、リリ達の餌箱も汚れたボロボロの毛布もないのである。
ボクは台所にいた母に詰め寄った。
「お母さん、リリはリリ達はどこ!?」
母はボクをさとすように
「ごめんね、かずくん、お父さんがやっぱり、駄目だって・・」
その日の夜、ボクは一晩中泣いた。
何年かたったある日、偶然この道を車で通りかかると、母がここの河原にリリ達を捨てた事を教えてくれた。
その日以来、ボクはこの道を通ると、必ず辺りを見回しリリ達を探してしまう。
癖みたいなものになっていた。
今も想う、きっと優しいご主人様に拾われたのだろうと、そう願うしか心の整理がつかなかった。
常盤橋を渡り終えると景色は一変し、街は活気を帯びてくる。
時刻は11時過ぎ、学校についた時には、土曜日なので、既に授業は終わりかけていた。
ボクは教室には向かわず、一足先に部室に向かった。