夢列車
「まぁ、梨花に恋愛映画なんて似合わないもの誘った私も悪かったわ」

そういいながら私を叩き起こした友人がコーヒーを口にする。

中野茜(なかの あかね)。中学の頃からのクラスメイトだ。

さっぱりとしていておおらか。悪口ならがさつで適当。

草食系男子なんかよりずっと男らしいと学校でも評判だ。

そのくせ、今日のようにラブな話が大好きな乙女らしさをもつという、奇跡のバランス感覚だった。

ちゃっかり彼氏持ち出し。

「悪かったとは思ってる……」

若干の彼氏持ちへの嫉妬も込めて、私は口を尖らせた。

せっかくのオレンジもこれでは美味しさが半減してしまう。

私達は今、映画館のそばの喫茶店で一休みしていた。

茜は映画の感想を語り合いたかったのだろうが、空気を読まずに居眠りをして内容を全く理解してないやつがいたので、頓挫してしまったのだ。

どこのどいつだ?

私だよ。

茜には申し訳ないと思うがやってしまったものは仕様がない。

趣味に合わなかったというのも確かだ。

だが、今日は自分でも恐ろしいほど映画にのめり込んでいた。

寝てしまったのには訳がある。

言い訳になるが、私は朝方二人に比べて早かったのだ。

比較的近場に住んでいる二人とはそこが違う。

早起きして、眠い中映画を見たら思わず睡魔に襲われてもしかたないのではないだろうか。

ま、ただの言い訳だけどさ。

それが分かっているから、私は頭を下げる。

「ごめんなさい」

その言葉と共に……。
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