夢列車
『何!』

「いや、2人揃って迫ってこないでください」

『早く!』

「わ、分かりましたから! 離れてください! 怖いです!」

詠美の悲痛な叫び。

気付いたら私は詠美に驚くほど接近していた。

茜もテーブルに身を乗り出している。

詠美は私を押し返すとはっきりと言い切った。

「いつもの言い訳がでないんですよ」

「あっ!」

「は?」

正反対の反応を返す私と茜。

全く意味の分からない私と、酷く納得した風な茜。
茜は手を叩きながら、

「ああ、ああ。そういうことか」

「うん。茜はいつも突っ込む側だから、物足りなく感じたのよ」

全く理解できない私がいる。

この意思の疎通が幼馴染みパワーというものだろう。

2人は小学生の頃から同級だったらしい。

クラスメイトになったのも一度や二度じゃないとか。

だから、私たち3人の関係は、少しややこしい。

私と詠美は先輩後輩。詠美と茜は同い年の幼馴染み。茜と私はクラスメイト。
ほら、ややこしい。

まあ、楽しいから良いんだけどね。

でも、詠美はどんなに仲良くなっても、親しき仲にも礼儀ありって、未だに私に対して敬語が入ってるけど。

「……でも、どういうこと?」

「やっぱりそういうことじゃないかな」

2人で勝手に納得するなっつーの!

「だから! 何!」

私はたまらず強い口調がになってしまうのが抑えきれない。

でも、2人はそんな私にどこか白けた顔を向けた。

「……あれね。意外と本人は気付かないものね」

「やっぱり無自覚なんだと思うよ?」

全く意味が分からない。

私には2人のような幼馴染みスキル持ってないから。

こんなことなら幼馴染み作っておくんだった!

「簡潔に! 答えて」

だんだんイラついてきた私。

そんな私に2人は至極あっさりと、

『好きな人ができた』

口を揃えてのたまった。
< 20 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop