愛の雫
「あなたにはまだわからないだろうけど、お母さんはね、今は話すのもツラくて堪らないのよ。それなのに、必死に体を起こしてあなたの手当てをお願いするなんて、並大抵のパワーじゃ出来ない事だと思うの」


何も言わないあたしに、看護師は微笑んだまま続けた。


「私なら、あなたのお母さんと同じ状況になった時、自分の事だけで精一杯で子供を気に掛ける事なんて絶対に出来ないわ」


「あの人は、あたしの事なんて……」


あたしが言葉を濁すように言うと、看護師が小さなため息を漏らして苦笑した。


< 538 / 830 >

この作品をシェア

pagetop